Vol.2 香港シャツメーカー “Ascot Chang/アスコット・チャン”

アスコット・チャンの香港工房とオフィスは、香港の九龍半島側、黄埔/Whampoaという工業エリアにあります。
お店で展開をしている既成品などは、香港のすぐ隣の都市「深セン」の工場で作られていますが、ビスポークやMTM(メイド・トゥ・メジャー)などの主要な商品は、この香港工房で作られています。

工房の内部は広く開けており、大きく分けて、パターンメイキング、カッティング、縫製、検品といったチームに分かれて作業をしています。もちろん、縫製チームもその中でさらに細分化され、袖を縫製する職人、襟を縫製する職人といったように分業制が取られています。また、シャツへのネーム刺繍を担当する職人チームもおり、一針一針丁寧に手縫いで刺繍をしていました。手縫いでの刺繍は、時間がかかる工程であるが故に、ジャスティンは「ここが我々の”ボトルネック”ですね」と冗談交じりに言っていました。

こちらの写真は、アスコットチャンと言えばコレと言っても過言ではないほど、メディアによく登場する「パターンルーム/型紙保管室」です。ビスポークシャツを仕立てた顧客の型紙はここに全て保管をされます。
保管期間は10年間で、もし最後のオーダーから10年間オーダーがなければパターン/型紙は破棄されますが、10年間の中で一度でも再度オーダーがあれば更新されていきます。私のパターンもこの中に保管をされています。

最後に、余談になりますが、香港テーラーの中には「パターンを残さない」というやり方を取る職人も存在します。通常、採寸数値を元に、模造紙のような大きな紙にパターンを描き、それをカットした後、そのカットされたパターンを生地の上に置き、チョークでなぞることで生地に写し取ります。そして、その後、裁断です。
しかし、一部の香港テーラーは、採寸数値を元に生地に直接パターンを描き、その後すぐに裁断をするというやり方を取ります。いわゆる「直裁ち」という手法で、ナポリなどのイタリアンテーラーもこういった手法を取っているところが多く存在します。
ナポリの事情はわかりませんが、香港の場合、「家が狭すぎて、保管する場所がない」がために、パターンを残さないようになった、という香港の住宅事情が理由としてあります(もちろん、これが全ての理由ではありませんが)。

パターンがないがゆえに、「毎回仕上がりや着心地が違う」といったことが起きてくるのも香港テーラーの特徴ではありますが、それはイタリアンテーラーで感じるのと同じように「味がある」ということで、勘弁いただければと思います。

もちろん、全ての香港テーラーがそうではありませんので、誤解のないようにしておきたいと思いますが、アスコットチャンと同世代のW.W.Chan and Sonsなどの老舗テーラーは、パターンを作成・保管しており、毎回同じ質のスーツを提供しています。彼らのような老舗テーラーは、世界中に顧客を持っており、「ネイビー生地でもう一着お願い。2ヶ月後に香港行くからその時に受け取るよ」といったオーダーを電話やメールで受けることが非常に多いため、パターンを残していないと、安定したスーツを提供できないためです。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

Moto Kwok-fan

Moto was born and raised in Japan and has lived and worked in Shanghai and Hong Kong.
After he graduated from university, Moto started his career as a real estate and investment agent and digital-marketing. He worked for this industries for about six years and afterwards he started own business as marketing and some fashion brand agent.
In 2018, he joined SARTO GINZA as director and now he in charge of the marketing, promotion and sales department.

Menswear enthusiast and movie props, LEGO block, old Kenner/Hasbro Action figures “Huge Collector”