Vol.4 香港シャツメーカー “Ascot Chang/アスコット・チャン”

 アスコット・チャンでシャツを仕立てる多くの顧客は、香港という土地柄、観光客と海外のビジネスマンがほとんどです。そのため、アスコット・チャンは、「顧客が香港に滞在しているうちにシャツの仮縫いまで仕上げられるスピード感」を、一つのサービスとして持っています。そのスピード感の秘密は、①香港内の極めて便利なエリアに自社工房を持っている、②安定した職人の技術と人数を確保できていること、そして、③膨大な生地のストックをすでに工房内に確保しているからです。

「アスコット・チャン」記事 4回目の今回は、そんな彼らの膨大なシャツ生地ストックルームをご紹介いたします。

 アスコット・チャンで選べる生地の種類は、シャツメーカーなだけあって膨大です。アルビニ/トーマス・メイソンやアルモといった高級生地はもちろん、彼らの長い歴史の中で収集されてきたヴィンテージコレクションまで、本当に豊富な選択肢を持っています。
 私はトーマス・メイソンと彼らのヴィンテージ生地で何着も仕立てていますが、最近はヴィンテージ生地を選択することが多いです。ぜひ、香港の店舗に行かれた際は、彼らのヴィンテージコレクションがまとめられたサンプル生地ブックを見せてもらってください。

 彼らのシャツのオーダー価格を今まで記事に書いていなかったので、参考にお伝えさせていただきますと、1着約20,000円~40,000円が価格レンジとなっており、オーダーは最低3枚からとなりますので、3枚約60,000円~をオーダーの参考価格として見ておくとよろしいかと思います。ちなみに、最低3枚~といったミニマムオーダーは、シャツメーカーでは標準的なことです。よほどの高級シャツで無い限りは、1着からでは職人の稼働時間とコストが合わないためです。
 また、彼らのシャツは、イタリアの手縫いシャツとは違い、通常ミシンでの縫製となりますが、手縫いで縫製したビスポークシャツもオーダー可能です。ただ、手縫いのシャツを体験した顧客の多くは「手縫いの意味を見出だせない」ため、手縫いのものを一着作ったあとは、皆さんミシン縫製の通常オーダーに戻ってくるそうです。
 というのも、アスコット・チャンのシャツは、「エレガント」や「色気」といったものを求めるイタリアのシャツとは違い、「ビジネス」や「誠実」、「フォーマル」、「威厳」といった側面を持つシャツで、顧客もそれを求めます。アメリカ大統領や、日本の麻生太郎氏が仕立てていますが、ビジネスや政界に求められるスタイルが、アスコット・チャンの持つスタイルなのです。
 ただ、頑なにハウススタイルを押し付けるわけではなく、ブリティッシュな身頃にイタリアンな襟を付けたり、カジュアルなポロシャツに台襟のあるシャツ襟を付けたり、ボタンダウンにフレンチカフのシャツを作ったりと、様々なスタイルを柔軟にMIXしているのがアスコット・チャンであり、大きく言えば「香港」そのもののスタイルと言えます。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

Moto Kwok-fan

Moto was born and raised in Japan and has lived and worked in Shanghai and Hong Kong.
After he graduated from university, Moto started his career as a real estate and investment agent and digital-marketing. He worked for this industries for about six years and afterwards he started own business as marketing and some fashion brand agent.
In 2018, he joined SARTO GINZA as director and now he in charge of the marketing, promotion and sales department.

Menswear enthusiast and movie props, LEGO block, old Kenner/Hasbro Action figures “Huge Collector”