Vol.1 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

香港のシャツメーカー「アスコット・チャン」をご紹介した後は、やはり同じく香港を代表するテーラー「W.W.Chan」を紹介しないわけにはいきません。今回から数回は、W.W.Chanという香港の老舗テーラーをご紹介いたします。

「W.W.Chan and Sons/WWチャン」は、1952年創業の香港テーラーで、数えきれないほどある香港テーラーの中で、おそらく最も有名なテーラリングハウスです。
ひとつ、私の個人的な「香港テーラーの定義」をお話させていただくと、大陸中国の寧波ならびに上海で修業をし、その後、国共内戦などから逃れるために香港へ移り、香港内で開業をしたテーラーのことを「香港テーラー」と呼んでいます。
このWWチャンも、創業者の陳榮華/Chan Wing Wah/チャン・ウィンワー氏が14歳の時に上海で修業をはじめ、その後、香港へ移り、1952年に香港の九龍半島・尖沙咀に店舗を開きました。
1950年代はWWチャンだけでなく、先にご紹介したアスコット・チャンや、1953年にペニンシュラホテル内で開業したWilliam Yu/ウィリアム・ユーなど多くのテーラーが香港へ移ってきた時期で、その多くがまだ店舗としてテーラーを続けていたり、店舗はないまでも職人として仕立てを続けていたりします。

こうしたWWチャンのような流れを持つテーラーのことを香港テーラーと呼び、もっと厳密には「Red Gang Tailor/レッドギャングテーラー」と呼んでいます。これは、上海や香港など西洋人の多くいる地で仕立ててきた彼らならではの呼び名で、「赤毛の西洋人の仕立てをしているテーラー」のことを意味しています。
このレッドギャングというのは、ある意味で「老舗」や「正真正銘」「高い技術」などを感じさせる称号のような重みがあるように思いますが、WWチャンの創業者のチャン・ウィンワー氏は、レッドギャングテーラーという呼び名に恥じない実力を持っているテーラーでした。

現在、チャン・ウィンワー氏は他界してしまっていますが、息子のPeter Chan/ピーター・チャンの弟子であり、WWチャン 香港を仕切るマスターカッターのPatrick Chu/パトリック・チュウが、レッドギャングテーラーとしての誇りと共にお店を守っています。

最後に、少しわかりにくいことを先にお伝えしておきたいのですが、現在、香港にあるWWチャンと、上海にあるWWチャン、そして四川省・成都にあるWWチャンは体制や運営が違います。
今後、数回にわたりに私がご紹介するのは、パトリック・チュウ率いる香港のWWチャンですので、こちらは頭の片隅に入れておいていただければと思います。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok