“3 Pocket Blouson/3PB” by The Armoury

随分と久しぶりの文章となります、Moto Kwokです。

今回ご紹介するのは、香港とNYCに2店舗ずつ展開するThe Armoury/アーモリーの商品、「3 Pocket Blouson (以下:3PB)」です。
クラシックなアイテムが中心のアーモリーですが、カジュアルアイテムも「Dayware/デイウェア」というコレクションで展開しています。
今回ご紹介する3PBも、そのDaywareコレクションの一つです。

なぜ、久しぶりの今回に、この3PBを紹介するのかと言えば、今私が一番愛用しているアイテムであることはもちろん、これを日本でもオーダーできるように準備中であるからです。
日本でのオーダー開始に関しては、また別途お知らせする予定ですので、今回は3PBの説明に集中したいと思います。

https://thearmoury.com/products/cotton-drill-3-pocket-blouson
https://thearmoury.com/products/cotton-drill-3-pocket-blouson

3PBは、アーモリーのDaywareコレクションの新商品として2019年の春夏シーズンにリリースされました。
リリース以降、アーモリーの共同オーナーのMarkさんがかなりの頻度で着用されていたので、彼のインスタグラム等を通して、3PBを着ている姿を見たことがある方も多いかと思います。

https://www.instagram.com/markchodotcom/
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3PBの商品を簡単に説明する必要があるかと思いますが、3PBは3ポケットブルゾンの名の通り、パッチポケットが3つあり、裏地も芯地もない1枚仕立ての着丈の短いブルゾンです。
ちなみに、非常に丁寧なマシンメイドですが、ボタンホールは職人による手縫いで仕上げられています。

Markさんが企画されたこともあり、襟の高さやパッチポケットの形など細かな部分までしっかりとデザインや実用性が考えられています。また、縫製は香港で67年続く歴史あるシャツ工場で縫製されていますので、商品としての質において何か言う必要はないでしょう。

Cotton Ripstop 3PB
Cotton Ripstop 3PB

冒頭で「愛用している」と書いた通り、私はすでに4着持っていて、仕事場や店舗はもちろん自宅にいる時も、ジャケットではない日は常に着用しています。
下の写真が私の持つ4着ですが、1着は2020年春夏コレクションとしてアーモリーからリリースされたネイビーコットンの既製品で、その他の3着はMTOでカスタムオーダーしたものです。
ヴィンテージのウール/モヘアのバーガンディ、Harrisonsのグリーンのヘリンボーンリネン、VBCのネイビーウールでオーダーし、どれもとても気に入っています。

Cotton Ripstop 3PB
MTO - Vintage Burgundy Wool/Mohair -
MTO - Harrisons Green Herringbone Linen -
MTO - VBC Navy Wool -

私の4着は、この春夏のサンプルとしてお願いしたものなので、コットン、ウール、モヘア、リネンといった生地ですが、秋冬にはより厚手のコットンやツイードなども3PBを作るのにはとても良い選択肢です。
Markさんは昨秋冬のIGポストで、ヘヴィーウェイトのコットンとツイード生地の3PBのスタイルを紹介してくれています。

https://www.instagram.com/markchodotcom/
https://www.instagram.com/markchodotcom/

3PBのスタイリングについて話をしたいのですが、偶然にも今まさにピックアップした2枚の写真がカジュアルとドレスの着こなしそれぞれを見せてくれています。
大前提として、”組み合わせるアイテムや自分自身に合うかどうかを見極めてから” という注意点はありますが、ノーネクタイとデニムやチノといったカジュアルスタイルでも、ネクタイとトラウザーズといったスタイルでも、どちらにも馴染むブルゾンであることはわかっていただけるでしょう。

3PBの日本でのオーダーに関して

別途アナウンスはありますが、少しだけ3PBの日本でのオーダーに関して紹介させていただきます。

オーダーはMTO(メイド・トゥ・オーダー)で、サイズ「XS・S・M・L・XL・XXL」と、仕立てる生地をお選びいただくシステムとなり、香港で67年続く老舗ファクトリー製です。
金額は生地により異なりますが、予定では約75,000円+税 ~案内予定で、例えば、下の写真のリネン生地は、80,000円+税となります。
上記の金額には、香港-日本の国際配送料ならびに関税がケアされています。

現在、準備中でございますので、また詳しいことは改めてアナウンスいたします。

MTO - Harrisons Green Herringbone Linen -
MTO - Harrisons Green Herringbone Linen -
MTO - Harrisons Green Herringbone Linen -
MTO - Harrisons Green Herringbone Linen -
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Moto Kwok-fan

Moto was born and raised in Japan and has lived and worked in Shanghai and Hong Kong.
After he graduated from university, Moto started his career as a real estate and investment agent and digital-marketing. He worked for this industries for about six years and afterwards he started own business as marketing and some fashion brand agent.
In 2018, he joined SARTO GINZA as director and now he in charge of the marketing, promotion and sales department.

Menswear enthusiast and movie props, LEGO block, old Kenner/Hasbro Action figures “Huge Collector”

【B&Tailor】 Bespoke Sport Coat

 ソウルのビスポークテーラー B&Tailor/ビーアンドテーラーにお願いしていた、スポーツコート(ジャケット)が納品されました。注文したのは、今年の7月頃だったと記憶していますが、仮縫いをソウルにて、中縫いを東京にて、という具合に進めたので、思いのほか早く到着しました。
 ちなみに、通常の日本でのオーダーですと、年3回の来日のタイミングで仮縫いと中縫い(初めての方は採寸も)を行うので、約1年後の仕上がりとなります。ただ、早く手に入れたいという方のために、私がお客様をソウルにお連れして、現地で仮縫い+ソウルのグルメをご案内する企画もございますので、お問合せください。

 さて。今回仕上がってまいりましたのは、下記の写真のジャケットです。B&Tailorからのビスポークとしては私にとって3着目で、1着目はグリーンのソラーロ生地のシングルピークドラペル 2pcs、2着目はブラウンとグレーのグレンチェックでダブルブレステッド、そして3着目がこのなんとも言えないジャケットというわけです。

 生地は、私が個人的に所有しているヴィンテージ生地コレクションから、SCABAL/スキャバルのヴィンテージツイードを選びました。ウールとカシミアで、ツイードの里、スコットランドで織られたものです。年代は不明ですが、風合いやデザイン、なにより数えるのが億劫になるほどの糸の色数を見るに、ヴィンテージであることは間違いないでしょう。
 ジャケットのスタイル自体は、B&Tailorのハウススタイルほぼそのままで、ノーベントとチケットポケット以外は仕様もフィット感もリクエストしていません。仮縫いでの微調整もほぼお任せです。というのも、ビスポークはたったの3着目ですが、彼らのメイド・トゥ・メジャーラインで、すでに10着以上仕立てているので、フィット感やサイズ感の共有は問題ないのです。
 もちろん、ビスポークもMTMも、はじめの1着~4着はかなりの話し合いを行いました。毎回、仕上がったものを前に改善点の話し合いを重ねていき、数着目にしてやっと納得の着心地にたどり着く、というのが、ビスポークオーダーというものだろうと思いますし、「失敗に関して話し合って、次はもっと良いものにしてくださいよ」と言える関係性を作れるか、がとても大切です。もしあなたが1着目から完璧なものを求めるのであれば、オーダーには向いていないかもしれません。

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Master ParkとChadによるフィッティング/ソウルのアトリエにて

 上の写真は、ソウルのアトリエでの初縫いの際の写真です。心苦しくも、お客様に撮影いただきました。右側のブルーの紳士が創業者であり、マスターテーラーのPark氏。左のブルーグレーの紳士が、Park氏の長男のChad氏です。Chadは、東京のトランクショーには帯同しないので、会える機会はソウルに行った時のみですが、いつでも明るく迎えてくれる兄貴肌の友人です。写ってはいませんが、Park氏の次男のChang氏もこの場におり、父と兄によるフィッティングの指示を丁寧に指示書に記載していました。
 フィッティングを受けていて面白いのは、マスターのフィッティングと、Chadのフィッティング、そして、Changのフィッティング、それぞれに特徴があるということです。そのため、マスターやChangがフィッティングを行ったお客さんの仕上がり品と、Chadが行ったお客さんのそれでは、どこか表情が違うのです。
 マスターとChangのフィッティングは、ハウススタイルに則ったクラシックな雰囲気ですが、少しスリムでモダンな印象を受けます。一方、Chadのフィッティングは、よりゆったりとしていて、クラシックな空気感よりも「昭和的」な匂いのする仕上がりになっているのです。
 今回、私は初縫いをマスターとChad、中縫いをマスターとChangというコンビで行ってもらいました。初縫いではChadメインのフィッティングによって、ゆったりとした「Chadスタイル」に調整されましたが、中縫いでは、それに対してマスターとChangが少しモダンなサイズ感を加えてくれました。結果として、今までとは違う風合いのB&Tailorが仕上がってきて、非常に満足しています。ビスポークの楽しみである、「一着ごとに良くなっていく」ということを体感できた瞬間です。十数着も仕立てていて、飽きるほど彼らのスーツを見ている私のような可笑しな人でないと気がつかないレベルの話なのだと思いますが、どこか良いのです。

 全身の写真はまだないのですが、こういったスタイルでこのジャケットを楽しんでいます。ジャケットは、今まさにご紹介しているB&Tailorのビスポーク、シャツはあいにくあまり写っていませんが、香港のAscot Chang/アスコット・チャンのビスポーク(生地はThomas&Masonのアスコットチャンエクスクルーシブ生地)、ネクタイは、シンガポールのVanda Fine Clothing/ヴァンダ・ファイン・クロージングのメイド・トゥ・メジャーオーダー、トラウザーズは、日本ブランドのエミネントが海外向けに販売している「Echizenya」というブランドのもので、シンガポールの友人でパートナーの「Last & Lapel/ラスト&ラペル」というショップで買ったものです。最後に靴は、パンツと同じネイビーのベルジャンローファーで、クロコとカーフのコンビネーション です。

 今、B&Tailorには、VBCの6Ply ネイビー生地で、1930年代風のシングルの3つボタン段返り ピークドラペル仕様のスリーピースをオーダー中です。また、香港のW.W.Chanには、Hardy Minnisの3Ply ダークグレー生地で、これまた30年代風で、段返りではない3つボタン仕様のピークドラペル・スリーピースをオーダーしています。今、私の中には、シングルのピークドラペルの趣味が到来しています。

Text, Translate and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

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Moto was born and raised in Japan and has lived and worked in Shanghai and Hong Kong.
After he graduated from university, Moto started his career as a real estate and investment agent and digital-marketing. He worked for this industries for about six years and afterwards he started own business as marketing and some fashion brand agent.
In 2018, he joined SARTO GINZA as director and now he in charge of the marketing, promotion and sales department.

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Tailor Caid/テーラーケイド

先日、渋谷にあるテーラー「Tailor Caid/テーラーケイド」へお邪魔してきました。
先月に香港のThe Armoury/アーモリーの9周年パーティー出席のために香港へ行った際に、Markさんから「テーラーケイドの山本さんに届けてほしい」という品物を預かってきたので、それをお渡しするためにお伺いしました。

山本さんとは日本版 The Rakeと伊勢丹のコラボレーションイベントなどで少しだけお話したことはありましたが、しっかりとお話する機会がなかなかなく、今回はとても良い機会となりました。

山本さんのスタイルは、アメリカントラディショナルで、昨今のイタリア至上主義とは全く違うアプローチで、多くの人にとって非常に新鮮に映るかもしれませんし、もしくは、日本では1960年代に流行したスタイル(アイビー)ですので、「古いもの」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、アメリカントラディショナルは、音楽・映画などの「文化」と共にその街で暮らす人たちの中から生まれてきた、生活にとても密着したスタイルであるため、実は最も自然なもので流行りとは無縁のスタイルなのです。

そんな山本さんのお話を聞きながら思い出したのは、ブルックスブラザーズのブレザーを着て日本橋や銀座を歩いていた私の祖父の姿で、確かに「街に合った服でかっこよかったな」と、そのスタイルの良さを改めて感じました。幼少期には分からなかった良さを、今感じられたのはうれしい反面、少し寂しさも感じますね。もう少し若い時にそのカッコよさや着こなしを知っていれば、、、“あんな流行りのあるひどい恰好”しなくて済んだのにと。


さて、そんなテーラーケイドは、ニューヨークのアーモリーで年に2回、トランクショーを開催しており、山本さんのスタイルは、ニューヨーカーたちからも絶賛されています。
トランクショーでは、最もトラディショナルな「ナンバーワンサックスーツ」はもちろん、アーモリーNYのためだけの限定モデル「モデル99」も非常に人気とのことです。モデル99は、アメリカントラディショナルの雰囲気は残しつつ、現代的なスタイリッシュさもプラスした、エクスクルーシブなパターンです。
頑なにスタイルを守ることを日本人は好きですが、インターナショナルな現代において、それはあまり良い方法ではありません。守るべきスタイルは残しつつ、現代にフィットさせることはとても大切で、山本さんはそれをまさに実行し、これからもずっと愛されるスタイルを仕立てられています。


下の写真に、山本さんと私と一緒に売っているのは、その日偶然いらっしゃった、コートブランド「Coherence/コヒーレンス」の中込さんです。6月にフィレンツェでお会いして以来でしたが、世界中を飛び回り、今は来年1月のPittiに向けた準備でさらにお忙しいご様子でした。

Text and Photos:Moto Kwok-Fan

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中央:テーラーケイド 山本さん、右:コヒーレンス 中込さん、左:私Moto Kwok
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Vol.5 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

 数日前まで、また香港に滞在していました。アーモリーの9周年パーティーと、「DROP93 by The Armoury]との商材のミーティングがメインでしたが、日本からお越しになっていたサルトのお客様をご案内させていただく時間があり、その際に、WWチャンにお連れいたしました。
 今回は、パトリックとアーノルドがアメリカでのトランクショーのため不在でしたが、カッターでセールスエグゼクティブのRyan/ライアンが対応してくれました。

 ライアンは基本的にはセールスと採寸/仮縫いがメインの仕事ですが、型紙の作成や生地の裁断/カッティングも自分でできるため、オーダー時のやり取りは、セールスの丁寧さと職人の知識が合わさり、とてもレベルの高い会話が可能です。オーダーに慣れていない方にとっては、積極的に提案してくれるので「おまかせ」で問題ありませんし、慣れている方にとっても、知識レベルの高いやり取りが可能です。
 実は、WWチャンの場合、Ryanのようなスタッフは珍しくなく、ほぼすべての店頭スタッフがセールスであり、カッターでもあるのです。これは香港テーラーにおいて、WWチャンならではの特徴です。ヘッドカッターであり、WWチャン香港を取り仕切るパトリックも、創業者チャン・ウィンワー氏の息子 ピーター・チャン氏の弟子であり、職人とセールスの双方を見習いのうちから経験していました。パトリックは、自身が経験していたこうしたスタイルを自分の弟子やスタッフたちにも受け継ぐために、セールスマンに対するカッティングの教育をしているとのことです。そして、その弟子の育て方の成果は、WWチャンを支える一番弟子のアーノルドやライアンの姿を見れば明らかです。

 ちなみに、ほかの香港テーラーの具合をお話すると、老舗のテーラーの場合、採寸はセールスが行い、仮縫いの際は熟練の職人(広東語で「師傅/Sifu)が担当する場合が多くあり、対して20代や30代がオーナーの新世代のテーラーの場合、採寸と仮縫いまでセールススタッフが担当することが多いです。もちろん採寸と仮縫いまでに留まり、型紙の作成や裁断、縫製などはできません。

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型紙を引くライアン

 お客様のオーダーに話を戻しますが、今回はフレンチスタイルのサファリジャケットとパンツをオーダーされました。ジャケットはヘッドカッター パトリックの引いたオリジナルデザインで、下記の写真がそれです。
 フレンチスタイルなフィッシュマウスラペルに、パッチポケット、後ろには左右の肩にアクションプリーツ、腰にはベルトがつけられています。おそらく、どこぞのオーダースーツ屋さんで作ると、トゥーマッチすぎて見てられない仕上がりになりそうですが、パトリックならではのバランスでデザインされたこちらのジャケットは、しばらく見ているとなぜか「かっこいいな」と思えてきます。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

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Moto was born and raised in Japan and has lived and worked in Shanghai and Hong Kong.
After he graduated from university, Moto started his career as a real estate and investment agent and digital-marketing. He worked for this industries for about six years and afterwards he started own business as marketing and some fashion brand agent.
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【4】Liverano & Liverano/リヴェラーノのお直し

Liverano & Liverano/リヴェラーノのお直し第4回目は、とうとう完成品のご紹介です。(第1回の記事第2回目の記事第3回の記事

お直し完了後の完成品

 直線部分以外のほとんどの箇所を手縫いで仕立てられていたわけですが、仮縫い後の本縫いも一部を除いてすべて手縫いで仕立て直しました。職人曰く、襟や袖の縫い付け以上に苦労をしたのが、ポケット部分にデザインとして入っていた極小ステッチの再現とのことです。
 一度ステッチを生地に跡が残らないように綺麗にほどき、お直しが完了した後に、そのステッチを元のそれと同じように入れ直すという作業になりますが、ステッチは表から見える部分ですので、ほかの部分とは違った神経を使う作業だったそうです。
 もちろん、ステッチを入れないでも着心地や、正直に言えば見た目にもさほど影響しないのですが、「オリジナルのテーラーの雰囲気を再現する」というサルト銀座としてのこだわりは、最後まで突き通させていただきました。

最後にお直し前と後のお写真を並べてみましょう。

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お直し前
お直し後

Vol.4 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

 前回、私がWWチャンでスポーツコートをオーダーしているというお話をしました。今回は、WWチャンの採寸に関してお話させていただきます。下の写真が、パトリックに採寸をしてもらっている様子です。
 肩幅、胸幅などを採寸してヌード寸を取り、肩の傾斜角度などの身体の特徴も細かく確認した後で、下記のようなジャケットによる、「サイズ感」や「シルエット」の確認をしていきます。

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 私が袖のないジャケットを着ていますが、これがサイズ感やシルエットを確認するためのWWチャンならではの採寸キットになります。MTMやパターンオーダーなどでは、各サイズの見本ジャケット(ゲージ)を着用して採寸をしていきますが、このWWチャンのキットはそういった意味合いのものではありません。
 実はこのジャケットは、前見頃と後ろ見頃が分かれており、上の写真は、肩部分をピンでとめている状態なのです。下の写真をご覧いただくと、肩の部分の生地が浮いており、ピンで留めているのがわかると思います。

 前と後ろのパーツがバラバラですので、肩の部分だけでなく、脇の部分も縫い付けられていません。さらに、脇にはウエストの絞り具合を確認するための線が縫い付けられています。この線を基準にしてウエストの絞りを調整していきます。脇ほど細かな線はつけられていませんが、肩にも基準となる線がつけられています。

 この採寸ジャケットを用いることで、採寸の段階で「ウエストの絞り具合」や「肩の傾斜」などを確認し、補正ができるため、より正確なパターンを引くことができ、なにより初縫いの段階で、極めて完璧に近いものを仕上げることができるのです。特に、肩の傾斜に関しては、下記のように肩パットの有無はもちろん、パットの厚さまで採寸の段階で確認ができるので、非常に効率的で正確な採寸方法であると思います。

www.timelessman.com.au
www.timelessman.com.au

 こうした採寸を経て、約1か月程度で初縫いが完成します。私の場合、ほとんど補正の必要がなく、袖丈の確認程度で終了するほど完成度の高い初縫いでした。あとは中縫いを残すのみですが、パトリックに中縫いをしてもらえるのは、おそらく年末か来年になりそうです。
 というのも、中縫い自体はすでに仕上がっていて、私も10月にThe Armoury/アーモリーの9周年パーティーへ出席するために香港へ行くので、その時に中縫いをやってもらおうと思っていたのですが、ちょうどパトリックが不在のタイミングだったため、次回彼が香港にいるときに中縫いをお願いするという話になったのです。

 実は、10月はパトリックがカリフォルニアからシカゴ、ニューヨーク、DCまでアメリカ中を駆け巡る「アメリカトランクショーシーズン」で、ほぼひと月、彼は香港を留守にするのです。下記に10月のトランクショー予定を載せておきましょう。

 ちなみに、唸るほど忙しい10月の後は、11月がオーストラリアのシドニー、メルボルン、シンガポールと続き、さらに、11月後半から12月初めはロンドン、パリ、スイス/チューリッヒでトランクショーを行います。  

 最近、パトリックが海外トランクショーで不在の場合は、弟子のアーノルドやライアンが店を守っていますので、いつWWチャンに行かれても問題なくオーダーや仮縫いが可能ですが、パトリックに会われたい方は彼らのトランクショーのスケジュールを確認してから行くとよいかもしれません。英語や広東語がわからなければ、サルトにご確認いただければ、私が予約の手配までさせていただきます。

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パトリックによる初縫いの様子

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

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Vol.3 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

 今回は、WWチャンのスタイルのお話をさせていただきます。まず、現在、私がWWチャンのマスターカッター パトリックに頼んで仕立てているスポーツコートをご覧ください。

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 実はまだ1回目の仮縫いしかできておらず、この状態ですが、10月中に香港で中縫い(2回目の仮縫い)をやってもらう予定です。生地はヴィンテージのウール100%で、色味はグリーンです。写真ではグリーンにもグレーにも見えるかと思いますが、実際に見ると赤や青の糸も見え隠れし、より複雑な色をしています。何色もの糸を使っているというのはヴィンテージ生地の一つの特徴でもありますね。
 
 今回私がオーダーしたのは、彼らのハウススタイルほぼそのままですが、英国的な構築されたスタイルから少し砕けたものでお願いしました。肩パットなしで少し広めの肩幅、胸やウエストはゆったりと。参考にパトリックの着用しているスタイルをご覧いただければ、イメージがつくと思います。

 WWチャンに関してはもちろん10年以上前から知っていますが、このスタイルのジャケットを数年前に初めて見たときは驚きました。というのも、老舗の香港テーラーが仕立てたジャケットというのは、基本的に肩のラインが「四角い」からです。イギリスのスーツがそうであるように、香港の老舗テーラーが仕立てるそれも分厚い肩パッドが入った真四角なつくりで、鎧のようなスーツが一般的でした(映画「キングスマン」でコリン・ファースなどが来ているスーツを見ていただければ、私の言う「四角い」という意味がお分かりいただけるかと思います)。
 もちろん、香港テーラーでも肩パッドを薄くしたり、なくしたりする仕立てもやってはいましたが、パターン自体(スーツのデザイン)が英国的であるために、どうやっても四角いシルエットのスーツになってしまうのです。
 ところが、上でパトリックが着ているジャケットは四角ではなく、三角というか、滑らかな肩のラインから、これもまた滑らかな袖がカーブを描きながら流れています。これのスタイルは、ただ単に肩パッドをなくすというレベルの話ではなく、老舗テーラーが新しいスタイルを受け入れ、研究をし、長年使い続けてきたパターンではない、新しいパターンで取り入れたからに他なりません。

 この「新しいスタイルを受け入れて、研究をする」というのが、パトリック、そして、WWチャン香港の魅力であり、強味です。WWチャンが、香港で最も尊敬され、世界中から支持をされるのは、考え方が柔軟で、日々研究を続けるパトリックが屋台骨だからこそです。
 パトリックは、長い歴史を持つレッドギャングテーラーの誇りと技術を守りつつ、多くの顧客の要望に応えるために新しいスタイルやデザインを受け入れ、WWチャンのエッセンスを盛り込んだうえで、顧客に提案を続けているのです。
 
 また、パトリックは今現在、北京のBrioや東京・香港のBryceland’s & Coとコラボレーションモデルを展開していますが、それも彼が要望を的確に理解し、それを実現し、対応できる技術と柔軟さがあるからこそです。
 下の写真は、パトリックがBryceland’sのためにパターンを引いたBryceland’sオリジナルのMTMスーツで、着用しているのはオーナーの一人である、Kenji Cheung/ケンジです。上のパトリックの写真と比べても、肩の落ち方などがまったく違うことがお分かりいただけると思います。

 ちなみに、日本の方で、パトリックの世界観を体験された場合は、こちらのBryceland’sモデルであれば、
Bryceland’sの東京・神宮前ストアでオーダーが可能です(WWチャン香港のオリジナルハウスカットは香港のショップでのみオーダー可能です)。

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Kenji Cheung/ケンジ

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

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Vol.2 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

 Vol.1で、「レッドギャングテーラー」のお話をしましたが、「上海系」、「広東系」、「インド系」、「ポルトガル系」など、より細分化して区別する人もいます。 
 ざっくりとご説明すると、上海系は、Vol.1でご説明した通り、WWチャンのようなテーラーのことで、上海で学び、香港へ移ってきたテーラーを指します。仮縫いを2回行うなど時間をかけて仕立てる香港テーラーの多くが上海系と呼ばれています。下に写真を載せましたが、これは上海にあった学校「カッティング&テーラリングカレッジ」の卒業証書で、WWチャンの創業者 チャン・ウィンワー氏のものです。写真は、中国・北京のセレクトショップでWWチャンのトランクショーも開催しているBrio Beijingからお借りました、謝謝 George!。
 余談ですが、上海系テーラーはその文字の通り上海からやってきた上海人の職人も多くいるため、工房内で広東語ではなく上海語を話す方も多くいます。以前、とある香港テーラーの工房へお邪魔した際、上海語が飛び交っていて、非常に驚きました。私は上海の大学で学んでいましたので、多少上海語が分かりますが、まさか香港で上海語を聞くとは思っていなかったのでとても驚きました。ただ、香港テーラーの起源は杭州/寧波や上海であるということを再認識する出来事でもありました。

 話を戻して、「広東系」、「インド系」、「ポルトガル系」ですが、これらは細かく話をすれば長くなりますが、これもまたざっくり説明をすると「スピード(が速い)」というのが特徴です。初回の仮縫いを採寸した翌日に行うといったのはザラというか、これでも遅いほうで、「仮縫いするから数時間後に戻ってきてね!」というのが普通であったりします。もちろん、完成までも早く数日や数週間で完成し、数日間の旅行や出張のうちに受け取りまでできてしまうほどのスピード感です。もっと言えば、「24時間で仕立てる」といったテーラーまであります。
 多くの日本人にとっての香港テーラーのイメージの多くは、実は上記の「広東・インド・ポルトガル」系テーラーであることが多いです。2、30年前に時計を戻して、当時の香港を思い出してみると、カメラと札束を持った日本人が押し寄せて「爆買い」をしていた姿が鮮明に思い浮かぶかと思います。
 この時、ブランドの爆買いに合わせて、「香港でオーダースーツ」というのも一つのトレンドでした。そして、オーダースーツを求める日本人の多くが訪れていたのが、今まさにご説明した安くて速いテーラーです。もちろん、WWチャンなど正統派のテーラーでじっくりと時間をかけて良いものを仕立てていた人もいますが、多くは「安さと速さ」を取り、24時間仕立てテーラーでスーツを何着も仕立てていました。

 サルトでも香港スーツのお直しを多く受けてきましたが、その多くはやはり24時間仕立てなどのテーラーのものでした。ミシンをフル活用したとしても多くの時間を必要とするスーツ仕立てにおいて、ここまで短時間で完成するということは、なにかを犠牲にしているということですので、「これは。。。」といった出来のものがあるのも事実です。ただ、同時に意外と完成度が高いものがあり、驚くことも多いです。なぜここまで安く、そして短時間でできるのかという部分は、とてもディープな裏話になりますので、ここでは遠慮しましょう。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

WWチャン創業者 チャン・ウィンワー氏の上海カッティング&テーラリングカレッジの卒業証書, pic by BRIO
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Moto Kwok-fan

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Vol.1 香港テーラー”W.W.Chan & Sons/WWチャン”

香港のシャツメーカー「アスコット・チャン」をご紹介した後は、やはり同じく香港を代表するテーラー「W.W.Chan」を紹介しないわけにはいきません。今回から数回は、W.W.Chanという香港の老舗テーラーをご紹介いたします。

「W.W.Chan and Sons/WWチャン」は、1952年創業の香港テーラーで、数えきれないほどある香港テーラーの中で、おそらく最も有名なテーラリングハウスです。
ひとつ、私の個人的な「香港テーラーの定義」をお話させていただくと、大陸中国の寧波ならびに上海で修業をし、その後、国共内戦などから逃れるために香港へ移り、香港内で開業をしたテーラーのことを「香港テーラー」と呼んでいます。
このWWチャンも、創業者の陳榮華/Chan Wing Wah/チャン・ウィンワー氏が14歳の時に上海で修業をはじめ、その後、香港へ移り、1952年に香港の九龍半島・尖沙咀に店舗を開きました。
1950年代はWWチャンだけでなく、先にご紹介したアスコット・チャンや、1953年にペニンシュラホテル内で開業したWilliam Yu/ウィリアム・ユーなど多くのテーラーが香港へ移ってきた時期で、その多くがまだ店舗としてテーラーを続けていたり、店舗はないまでも職人として仕立てを続けていたりします。

こうしたWWチャンのような流れを持つテーラーのことを香港テーラーと呼び、もっと厳密には「Red Gang Tailor/レッドギャングテーラー」と呼んでいます。これは、上海や香港など西洋人の多くいる地で仕立ててきた彼らならではの呼び名で、「赤毛の西洋人の仕立てをしているテーラー」のことを意味しています。
このレッドギャングというのは、ある意味で「老舗」や「正真正銘」「高い技術」などを感じさせる称号のような重みがあるように思いますが、WWチャンの創業者のチャン・ウィンワー氏は、レッドギャングテーラーという呼び名に恥じない実力を持っているテーラーでした。

現在、チャン・ウィンワー氏は他界してしまっていますが、息子のPeter Chan/ピーター・チャンの弟子であり、WWチャン 香港を仕切るマスターカッターのPatrick Chu/パトリック・チュウが、レッドギャングテーラーとしての誇りと共にお店を守っています。

最後に、少しわかりにくいことを先にお伝えしておきたいのですが、現在、香港にあるWWチャンと、上海にあるWWチャン、そして四川省・成都にあるWWチャンは体制や運営が違います。
今後、数回にわたりに私がご紹介するのは、パトリック・チュウ率いる香港のWWチャンですので、こちらは頭の片隅に入れておいていただければと思います。

Text and Photos:Moto Kwok, Sally Kwok

【3】Liverano & Liverano/リヴェラーノのお直し

 Liverano & Liverano/リヴェラーノのお直し第3回目は、仮縫いの様子をご紹介いたします(第1回の記事第2回目の記事)。
 サルト銀座の特徴の一つとして、前回「フィッティング」という工程をご紹介いたしましたが、今回ご紹介する「仮縫い」もまた、我々の特徴と言ってもよいかもしれません。

仮縫い

 通常、「仮縫い」という工程は、フルオーダーメイドのスーツを作る際に行われる工程で、採寸数字を元に簡易的に縫製したスーツを一度お客様に着ていただき、細かな部分の調整をしていく工程になります。
 お直しの場合、仮縫いという工程が発生することは少ないですが、今回のような大型のお直しの場合や、お客様がご希望される場合は、仮縫いを実施させていたくことがございます。

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 所々に白い糸が見えるかと思いますが、それが生地を仮止めしている糸になります。この白い糸を解けば、このスーツはまたバラバラの「布」に戻ります。
 今回は、カッティングやスタイルが独特なリヴェラーノのスーツであることと、なにより手縫いでのお直しになることもあり、仮縫いの工程は非常に重要でした。
 こうして実際に着用していただき、立体的な状態で見せていただくことで、初めて分かる問題点もありますし、すでに把握していた問題点に対しても、改めて確認することができるため、完成度の高いお直しをご提供することが可能になります。


今回の仮縫いの後、職人が「本縫い(実際の糸で縫って完成させる)」を行い、こちらのリヴェラーノは感性いたします。次回は、いよいよ完成品のご紹介です。

文:Moto Kwok-Fan(モト・クオック・フアン)